2018年10月5日金曜日

通貨は請求権証


目次

  • 通貨をどう捉えるか
  • 通貨は請求権証
  • 発行手続:借金として発行する必要はない
  • 供給手段:賃金限定である必要はない
  • 主  権:国民起点の通貨システム



まとめ



 通貨は分配に関する法の産物(権利情報)であり、請求権証と考えることが出来ます。現状では借金として発行して賃金限定で供給されていますが、借金発行なら恐慌、賃金限定の通貨供給なら技術的失業の問題があると考えられます。通貨を安定化し購買力の欠落を埋めるためには、借金発行の停止やベーシックインカム(国民配当)、物価目標といったものを通貨の主権者(国民)の手で導入する必要があると考えられます。



通貨をどう捉えるか


 通貨に関しては一般(?)に「材質は貴金属、発行は借金(債務)、収入は賃金限定(でなければならない)」というようなイメージがある(あった)ように見えます。通貨機能の要件として、現在では材質は貴金属で無くても問題ないことが広く認められています。現行の発行形式や収入経路についても同じように考えてみたいと思います。結論としてはこれらに拘る必要はなく、むしろ問題となる条件ですから対策が必要と考えられます。


通貨は請求権証


 通貨は富の分配を目的とした法の産物(権利情報)であり、請求権証と考えることが出来ます。現在では硬貨、紙幣、台帳(電子)上の数字などの形で流通させて請求権情報を管理しています。誰がどれだけ請求権を持っているかという情報は硬貨・紙幣等の所有状態や台帳の内容等によって管理され、その変化は硬貨や紙幣なら引き渡し、台帳なら更新によって記録されます。それが購買契約であれば請求権証の移動と逆の方向に富(商品)が分配されます。

 通貨システムを権利情報の管理システムと考えれば、利便的・技術的な問題はあったとしても、通貨量に自然的・物理的な限界があるから富を分配出来ないというような事態は根本的にありえないという見方が出来ます。通貨は富の分配を目的とすることから、供給力を基準に購買力(循環通貨)を調整するのが本来の姿であるとも考えられます。以上のことから「通貨は請求権証、供給力を基準に購買力(循環通貨)を調整するもの」という認識を基本として考えることが出来そうです。


発行手続:借金として発行する必要はない


 通貨の発行手続きは、率直に考えれば国民から委託を受けた公機関が通貨安定(供給力や物価など)を考慮して行いますが、現在の準備預金制度(債務通貨システム)では市中銀行への借金として発行されます。そうして発行されるものが預金で、通貨発行権を根拠に発行する通貨とは異なり返済によって消滅します。借金によって発行される預金は慣習的に通貨(請求権証)として扱われますが、実態は通貨発行権とは全く関係のない、市中銀行に対する借用証と考えられます。


準備預金制度(債務通貨システム)の問題


 借金として預金を創造・消滅するシステムは、借金のために設定する担保資産の価値の変動が通貨量も変動させるため、富の分配の不安定化(資産バブル・恐慌)を引き起こすと考えられます。資産バブル(通貨膨張)では「借金(預金発行)→投機(担保高騰)→借金(預金発行)→投機(担保高騰)…」というサイクルで、預金(借金)と共にその裏付けになっている担保資産の価値が膨張していくと考えられます。通貨量に伴って購買力は増大しますから富の分配が活発になって好景気になります。

 バブルが弾けると、不自然に吊り上げられた担保資産の価値が暴落し債務超過になりますが、それを解消しようと借金返済すると貸出によって生まれた預金も消滅します。恐慌(通貨収縮)では「担保暴落→債務超過→返済(預金消滅)→担保暴落(通貨需要が一層高まるため)…」というサイクルで市中の通貨量減少(金融ショック)が起きると考えられます。また貯蓄志向も強化されます。こうして購買力(富の分配機能)が著しく低下するため、深刻な貧困(デフレ不況)が起きると考えられます。


不可避の恐慌で借金が増える


 恐慌の対応ですが、現行制度では基本的に国債(いわゆる「国の借金」)を増発して市中銀行から借金(預金創造)をすることで通貨調達し、財政支出による通貨供給を行うことで相殺させます。ですから通貨収縮と貯蓄志向によって縮小した購買力は維持されても、政府の借金は増大します。このことが準備預金制度を採用している国の緊縮財政、つまり消費増税や財政支出の抑制といったものに影響を及ぼしていると考えられます。民間が債務を増やしたり貯蓄を取り崩すようになるには安定した好景気という条件があるかと思いますが、緊縮では難しいと考えられます。

 「通貨は請求権証、供給力を基準に購買力(循環通貨)を調整するもの」という認識に照らすと、借金として発行された預金(債務通貨)は純粋な請求権証でもなければ供給力を基準とした調整でも無く、単に債務という枝葉末節の条件によって本分である富の分配を振り回すものであると考えることが出来ます。準備預金制度ではバブルと恐慌は呼吸のようなものと言えますから、いかに不安定な仕組みが富の分配を担っているか、また貧困を深刻にしやすいかということです。金利操作や金融規制といった表面的な対応がこうした問題の根幹に対しては有効でないことは20世紀初頭でも指摘されていましたが、リーマンショックで再度証明されたと考えることが出来ます。


借金として発行するのをやめる


 預金創造の停止が研究されています。100%マネー(シカゴプラン)は市中銀行が預金の引き出しのために準備しておかなければならない法定通貨を、常に100%準備しておかなければならないという政策です。これにより借金返済と預金消滅は無関係になるので、先述のようなデフレ不況は大きく軽減されます。同時に市中銀行の貸出による預金創造を禁止することで、通貨発行権に基づく債務によらない購買力が実現し、民間の債務も大幅に減少します。国債も返済期日が来たものから通貨発行によって返済することで、増税によらず混乱もない完済が可能と考えられます。

 これらは通貨を純粋な請求権証として合意し直すための政策と言えるため、債務という枝葉末節の条件に振り回されて必要な購買力を損なうという本末転倒な状態を避けることが可能になると考えられます。また預金の創造を禁止することにより法定通貨だけが発行可能になりますが、この管理は独立した公的組織が国民の委託を受けて行い、通貨供給や回収に関しては政府が財政政策として行うことが望ましいと考えられます。


利子:富の分配を忘れた通貨システム


 市中銀行からの貸出によって創造される預金の中に利子返済分の預金は入っていませんから、利子を払うためにその分だけ新たに借金をしなければならなくなると考えられます。これは複利と呼ばれます。銀行は商売で預金発行しているので利子を無くすのは難しく、また債務対応のためにフロー税(消費税等)ではなくストック税(資産課税等)を取るのも現状では抵抗があると考えられます。そのようにして大衆に負担を求めるということが起こるのかもしれません。

 政治経済の問題として購買力の不足に直面していますが、債務の拡大を消費増税と支出抑制による緊縮で抑え込むことで、購買力まで抑え込んでしまっています。これは現在の通貨が全て市中銀行に対する借金だからですが、矛盾を誤魔化すためか生産性向上が必要だと言ってみたり、購買力不足(デフレ)をさりげなく棚上げしようとする動きも見られます。マスコミはそれらの動きに追随して大衆に負担を押し付けようとしているように見えます。

 現在の通貨システムで誰も債務を負わないのであれば預金は創造されず、緊縮・利払いによって通貨はさらに萎縮・偏在し、購買力は低迷を続けていくのではないかと考えられます。恐慌にしろ利子にしろ債務の拡大を伴わないということがほとんど不可能であり、購買力を必要な時に必要なだけ調整することも出来ないようです。


準備預金制度(債務通貨システム)の由来?


 銀行家など一部の人々は、もともと金属(材質)という条件があった古い通貨システムに、債務発行(手続き)という条件を加えることで債権者(貸主)の特権を得たようです。最初は金庫業らしく金属の通貨(請求権証)を預かるだけだったのが、そこで渡す引換券自体が紙の請求権証として機能すること、そして軽くて便利なので需要が高いことに目をつけると「いつでも(法定の)金属の通貨(請求権証)に交換できます」という約束で、預かった請求権証以上の量の引換券を創造・貸出して利子を取り始めたと言われています。台帳でも同じく、貸出と同時に口座上に預金創造されます。そして返済ができなくなると担保を取り上げると考えられます。これが現在は貸出による預金創造という形式だけを残して続いていると考えられます。
 


供給手段:賃金限定である必要はない


 消費者に対する通貨の直接給付(ベーシックインカム)を「通貨は請求権証、供給力を基準に購買力(循環通貨)を調整するもの」という認識に照らしてみると、まず請求権証の機能を保証するのは賃金経路を通らせることによるものではなく、偽造(コピー)防止技術などの問題と考えられますからこの件とは無関係と言えます。また、供給力と購買力のバランスについては技術的失業(生産自動化に伴う賃金縮小)があるため、需給バランスを恒常的に実現可能にするために直接給付は必要と考えられます。

 ただ、直接給付をしただけでは購買力と供給力のバランスが取れるとは限りませんから、不安定要素を取り除き需給バランスを観測する仕組みとして、預金創造の停止や物価目標等が必要と考えられます。その上で状況に合わせて給付額や通貨発行・フロー税(消費税等)・ストック税(資産課税等)の増減を用い、請求権証を供給・回収することで購買力を調整すれば良いのではないかと考えられます。通貨システムはこのような要件を定めて可能なだけ自動化すればいいのではないかと思います。


主権:国民起点の通貨システム


 初めの方で触れた通貨に関する「材質は貴金属、発行は借金(債務)、収入は賃金限定(でなければならない)」というようなイメージを考えてみましたが、そうである必要はないということ、現在続いている借金(債務)発行や賃金限定供給に関しては、恐慌や技術的失業といった問題の根本的な原因になっているため、借金(債務)発行の停止やベーシックインカム等の対応が必要ということを確認しました。通貨は法の産物(権利情報)ですから合意次第で利子無く発行可能であり、直接給付も可能と考えられます。 

 通貨システム由来の問題は人間社会で解決する必要があると考えられます。そのための合意の中心になるのは、通貨供給の起点となる国民消費者、その中でも特に1%の特権階級等ではない生活に悩む大半の消費者と考えられます。政治的実現性というと難しく聞こえますが、数が増えればいいのではないかと思います。当事者意識や主体性というとやはり難しく聞こえますが、おカネがもらえるなら賛成するという話ではないかと思います。あまり難しく考えずに、率直な欲求の無理のない実現が本当に可能なのかどうか、という視点で考えてみるといいのかもしれません。

 今回あまり技術的失業とベーシックインカム(国民配当)には触れませんでしたが、消費者がタダで請求するのはどうかと思われる方は技術的失業について調べてみることをおすすめします。本ブログでも成果を載せていますが、今回の参考資料も推薦します。

 (2018.10.6一部加筆修正)



参考資料(推薦)


駒田朗『最強のベーシックインカム:AIとロボットが働く時代のおカネのシステム』(2018)

のらねこま『ベーシックインカムの時代が始まる: その理由と財源および導入手順』(2017)

のらねこま『金融緩和の天国と地獄:改訂版: 永久に繰り返すバブルの膨張と崩壊 常識に挑戦する経済論』(2017) 

山口薫『公共貨幣―政府債務をゼロにする「現代版シカゴプラン」 』(2015)
 

クリフォード・H・ダグラス『社会信用論』(1933)