2018年10月5日金曜日

通貨は請求権証


目次

  • 通貨をどう捉えるか
  • 通貨は請求権証
  • 発行手続:借金として発行する必要はない
  • 供給手段:賃金限定である必要はない
  • 主  権:国民起点の通貨システム



まとめ



 通貨は分配に関する法の産物(権利情報)であり、請求権証と考えることが出来ます。現状では借金として発行して賃金限定で供給されていますが、借金発行なら恐慌、賃金限定の通貨供給なら技術的失業の問題があると考えられます。通貨を安定化し購買力の欠落を埋めるためには、借金発行の停止やベーシックインカム(国民配当)、物価目標といったものを通貨の主権者(国民)の手で導入する必要があると考えられます。



通貨をどう捉えるか


 通貨に関しては一般(?)に「材質は貴金属、発行は借金(債務)、収入は賃金限定(でなければならない)」というようなイメージがある(あった)ように見えます。通貨機能の要件として、現在では材質は貴金属で無くても問題ないことが広く認められています。現行の発行形式や収入経路についても同じように考えてみたいと思います。結論としてはこれらに拘る必要はなく、むしろ問題となる条件ですから対策が必要と考えられます。


通貨は請求権証


 通貨は富の分配を目的とした法の産物(権利情報)であり、請求権証と考えることが出来ます。現在では硬貨、紙幣、台帳(電子)上の数字などの形で流通させて請求権情報を管理しています。誰がどれだけ請求権を持っているかという情報は硬貨・紙幣等の所有状態や台帳の内容等によって管理され、その変化は硬貨や紙幣なら引き渡し、台帳なら更新によって記録されます。それが購買契約であれば請求権証の移動と逆の方向に富(商品)が分配されます。

 通貨システムを権利情報の管理システムと考えれば、利便的・技術的な問題はあったとしても、通貨量に自然的・物理的な限界があるから富を分配出来ないというような事態は根本的にありえないという見方が出来ます。通貨は富の分配を目的とすることから、供給力を基準に購買力(循環通貨)を調整するのが本来の姿であるとも考えられます。以上のことから「通貨は請求権証、供給力を基準に購買力(循環通貨)を調整するもの」という認識を基本として考えることが出来そうです。


発行手続:借金として発行する必要はない


 通貨の発行手続きは、率直に考えれば国民から委託を受けた公機関が通貨安定(供給力や物価など)を考慮して行いますが、現在の準備預金制度(債務通貨システム)では市中銀行への借金として発行されます。そうして発行されるものが預金で、通貨発行権を根拠に発行する通貨とは異なり返済によって消滅します。借金によって発行される預金は慣習的に通貨(請求権証)として扱われますが、実態は通貨発行権とは全く関係のない、市中銀行に対する借用証と考えられます。


準備預金制度(債務通貨システム)の問題


 借金として預金を創造・消滅するシステムは、借金のために設定する担保資産の価値の変動が通貨量も変動させるため、富の分配の不安定化(資産バブル・恐慌)を引き起こすと考えられます。資産バブル(通貨膨張)では「借金(預金発行)→投機(担保高騰)→借金(預金発行)→投機(担保高騰)…」というサイクルで、預金(借金)と共にその裏付けになっている担保資産の価値が膨張していくと考えられます。通貨量に伴って購買力は増大しますから富の分配が活発になって好景気になります。

 バブルが弾けると、不自然に吊り上げられた担保資産の価値が暴落し債務超過になりますが、それを解消しようと借金返済すると貸出によって生まれた預金も消滅します。恐慌(通貨収縮)では「担保暴落→債務超過→返済(預金消滅)→担保暴落(通貨需要が一層高まるため)…」というサイクルで市中の通貨量減少(金融ショック)が起きると考えられます。また貯蓄志向も強化されます。こうして購買力(富の分配機能)が著しく低下するため、深刻な貧困(デフレ不況)が起きると考えられます。


不可避の恐慌で借金が増える


 恐慌の対応ですが、現行制度では基本的に国債(いわゆる「国の借金」)を増発して市中銀行から借金(預金創造)をすることで通貨調達し、財政支出による通貨供給を行うことで相殺させます。ですから通貨収縮と貯蓄志向によって縮小した購買力は維持されても、政府の借金は増大します。このことが準備預金制度を採用している国の緊縮財政、つまり消費増税や財政支出の抑制といったものに影響を及ぼしていると考えられます。民間が債務を増やしたり貯蓄を取り崩すようになるには安定した好景気という条件があるかと思いますが、緊縮では難しいと考えられます。

 「通貨は請求権証、供給力を基準に購買力(循環通貨)を調整するもの」という認識に照らすと、借金として発行された預金(債務通貨)は純粋な請求権証でもなければ供給力を基準とした調整でも無く、単に債務という枝葉末節の条件によって本分である富の分配を振り回すものであると考えることが出来ます。準備預金制度ではバブルと恐慌は呼吸のようなものと言えますから、いかに不安定な仕組みが富の分配を担っているか、また貧困を深刻にしやすいかということです。金利操作や金融規制といった表面的な対応がこうした問題の根幹に対しては有効でないことは20世紀初頭でも指摘されていましたが、リーマンショックで再度証明されたと考えることが出来ます。


借金として発行するのをやめる


 預金創造の停止が研究されています。100%マネー(シカゴプラン)は市中銀行が預金の引き出しのために準備しておかなければならない法定通貨を、常に100%準備しておかなければならないという政策です。これにより借金返済と預金消滅は無関係になるので、先述のようなデフレ不況は大きく軽減されます。同時に市中銀行の貸出による預金創造を禁止することで、通貨発行権に基づく債務によらない購買力が実現し、民間の債務も大幅に減少します。国債も返済期日が来たものから通貨発行によって返済することで、増税によらず混乱もない完済が可能と考えられます。

 これらは通貨を純粋な請求権証として合意し直すための政策と言えるため、債務という枝葉末節の条件に振り回されて必要な購買力を損なうという本末転倒な状態を避けることが可能になると考えられます。また預金の創造を禁止することにより法定通貨だけが発行可能になりますが、この管理は独立した公的組織が国民の委託を受けて行い、通貨供給や回収に関しては政府が財政政策として行うことが望ましいと考えられます。


利子:富の分配を忘れた通貨システム


 市中銀行からの貸出によって創造される預金の中に利子返済分の預金は入っていませんから、利子を払うためにその分だけ新たに借金をしなければならなくなると考えられます。これは複利と呼ばれます。銀行は商売で預金発行しているので利子を無くすのは難しく、また債務対応のためにフロー税(消費税等)ではなくストック税(資産課税等)を取るのも現状では抵抗があると考えられます。そのようにして大衆に負担を求めるということが起こるのかもしれません。

 政治経済の問題として購買力の不足に直面していますが、債務の拡大を消費増税と支出抑制による緊縮で抑え込むことで、購買力まで抑え込んでしまっています。これは現在の通貨が全て市中銀行に対する借金だからですが、矛盾を誤魔化すためか生産性向上が必要だと言ってみたり、購買力不足(デフレ)をさりげなく棚上げしようとする動きも見られます。マスコミはそれらの動きに追随して大衆に負担を押し付けようとしているように見えます。

 現在の通貨システムで誰も債務を負わないのであれば預金は創造されず、緊縮・利払いによって通貨はさらに萎縮・偏在し、購買力は低迷を続けていくのではないかと考えられます。恐慌にしろ利子にしろ債務の拡大を伴わないということがほとんど不可能であり、購買力を必要な時に必要なだけ調整することも出来ないようです。


準備預金制度(債務通貨システム)の由来?


 銀行家など一部の人々は、もともと金属(材質)という条件があった古い通貨システムに、債務発行(手続き)という条件を加えることで債権者(貸主)の特権を得たようです。最初は金庫業らしく金属の通貨(請求権証)を預かるだけだったのが、そこで渡す引換券自体が紙の請求権証として機能すること、そして軽くて便利なので需要が高いことに目をつけると「いつでも(法定の)金属の通貨(請求権証)に交換できます」という約束で、預かった請求権証以上の量の引換券を創造・貸出して利子を取り始めたと言われています。台帳でも同じく、貸出と同時に口座上に預金創造されます。そして返済ができなくなると担保を取り上げると考えられます。これが現在は貸出による預金創造という形式だけを残して続いていると考えられます。
 


供給手段:賃金限定である必要はない


 消費者に対する通貨の直接給付(ベーシックインカム)を「通貨は請求権証、供給力を基準に購買力(循環通貨)を調整するもの」という認識に照らしてみると、まず請求権証の機能を保証するのは賃金経路を通らせることによるものではなく、偽造(コピー)防止技術などの問題と考えられますからこの件とは無関係と言えます。また、供給力と購買力のバランスについては技術的失業(生産自動化に伴う賃金縮小)があるため、需給バランスを恒常的に実現可能にするために直接給付は必要と考えられます。

 ただ、直接給付をしただけでは購買力と供給力のバランスが取れるとは限りませんから、不安定要素を取り除き需給バランスを観測する仕組みとして、預金創造の停止や物価目標等が必要と考えられます。その上で状況に合わせて給付額や通貨発行・フロー税(消費税等)・ストック税(資産課税等)の増減を用い、請求権証を供給・回収することで購買力を調整すれば良いのではないかと考えられます。通貨システムはこのような要件を定めて可能なだけ自動化すればいいのではないかと思います。


主権:国民起点の通貨システム


 初めの方で触れた通貨に関する「材質は貴金属、発行は借金(債務)、収入は賃金限定(でなければならない)」というようなイメージを考えてみましたが、そうである必要はないということ、現在続いている借金(債務)発行や賃金限定供給に関しては、恐慌や技術的失業といった問題の根本的な原因になっているため、借金(債務)発行の停止やベーシックインカム等の対応が必要ということを確認しました。通貨は法の産物(権利情報)ですから合意次第で利子無く発行可能であり、直接給付も可能と考えられます。 

 通貨システム由来の問題は人間社会で解決する必要があると考えられます。そのための合意の中心になるのは、通貨供給の起点となる国民消費者、その中でも特に1%の特権階級等ではない生活に悩む大半の消費者と考えられます。政治的実現性というと難しく聞こえますが、数が増えればいいのではないかと思います。当事者意識や主体性というとやはり難しく聞こえますが、おカネがもらえるなら賛成するという話ではないかと思います。あまり難しく考えずに、率直な欲求の無理のない実現が本当に可能なのかどうか、という視点で考えてみるといいのかもしれません。

 今回あまり技術的失業とベーシックインカム(国民配当)には触れませんでしたが、消費者がタダで請求するのはどうかと思われる方は技術的失業について調べてみることをおすすめします。本ブログでも成果を載せていますが、今回の参考資料も推薦します。

 (2018.10.6一部加筆修正)



参考資料(推薦)


駒田朗『最強のベーシックインカム:AIとロボットが働く時代のおカネのシステム』(2018)

のらねこま『ベーシックインカムの時代が始まる: その理由と財源および導入手順』(2017)

のらねこま『金融緩和の天国と地獄:改訂版: 永久に繰り返すバブルの膨張と崩壊 常識に挑戦する経済論』(2017) 

山口薫『公共貨幣―政府債務をゼロにする「現代版シカゴプラン」 』(2015)
 

クリフォード・H・ダグラス『社会信用論』(1933)

2018年8月30日木曜日

人手の分配不足



目次

  • 企業の人手不足と通貨循環
  • 認識の偏りと情報戦略


まとめ


企業の「人手不足」を考える時、その印象だけを用いて経済全体まで供給能力不足と考える向きがあるように見えますが、
通貨循環(購買力)が不足しても物資や労働力の分配が停滞し、結果的に人手不足(業務消化不良)は起きると考えられます。マスコミ等は通貨循環を無視して供給能力に問題があるかのように言っていますが、まずは両方の可能性を考えたほうがいいかと思います。


企業の人手不足と通貨循環


世間で考えられている企業の人手不足の背景は、市場における労働供給(ひいては物資の供給能力全体)の不足のようです。ですから、通貨循環(購買力)に不足はないという認識を前提にしているということにもなります。このことについて考えてみます。



物資が不足する2つのケース


下の図では経済を水道に例えています。物資の分配が滞るケースとして、供給能力不足と通貨不足の二通り考えられます。物資をより多く受け取るためには供給能力を増大させるだけでなく、通貨(請求権証明)の分配を増大させる必要もあります。いくら店先に商品を並べても誰も必要な通貨を持っていなければ分配は機能しません。

 


労働力供給は過剰


企業活動では外部から分配されるモノやサービスは労働力や生産設備などですが、これらは通貨の支払いで請求します。ですからもし市場に供給される労働力が、その購買力に対して不足気味なら賃金は上がると考えられますが、実際は伸び悩む傾向です。従って実際の労働市場は労働力供給が過剰な状態であり、企業に労働力や生産設備が不足するのは、購買力低下による分配の問題ではないかと考えられます。
 


人手の「分配」不足


通貨循環が不足するということは収入と支出が不足するということですから、企業の購買力は低下し、市場に対して生産設備や労働力などを請求できなくなるということが考えられます。市場の購買力(有効需要)が低下すれば、労働力やその他商品は相対的に供給過剰気味になり、低物価や低賃金になると考えられます。


 同様に消費者の購買力も不足しますから、低売上になると考えられます。企業は売上維持のためによりたくさんの仕事をこなさなければならなくなりますが、同時に労働力や生産設備を満足に請求できなくなり、結果として業務消化が困難になっていくのではないかと考えられます。
 

 

供給過剰と通貨不足について


 労働供給が過剰になる理由の一つとして、自動化が考えられます。労働力の供給側には、生活のために収入が必要な人が大勢いますが、自動化によって人件費削減圧力が起きて、労働市場の購買力が失われて供給過剰になっていると考えられます。また、通貨発行の問題として準備預金制度が考えられます。通貨が借金として市中銀行から発行されるようになっており、そのことが通貨管理の困難さ、利子負担や金融ショックといった通貨システムの不安定さ等の原因になっているということです。 
 


認識の偏りと情報戦略


世論では不況=供給能力不足という前提が当然だとされているように見えますが、その認識を率先して広めているのは報道機関と政府機関のようです。それらについて考えてみます。

 

「供給能力不足に違いない」=「能力・努力不足に違いない」


供給能力が不足しているという前提に立つと、不況や貧困といった問題は、能力や努力が足りないからという解釈になると考えられます。現実の不況が通貨(購買力)の不足によるものだった場合、いくら能力向上や努力をしても物資の分配に増大はありませんから、遅かれ早かれ技術的失業などの影響によって、過重労働やブラック企業的な運営に突入すると考えられます。筆者の眼には生産要素に負担を求めようとする傾向と、ブラック企業的な組織運営を容認・礼賛する傾向は比例するように見えます。
 


マスコミの誘導


マスコミの動向について触れておきます。購買力不足(デフレ)を実質的に黙殺する一方、少子化・人手不足を不況の原因であるかのようにそれとなく見せ、世論を誘導している節があるからです。その認識を前提にしているとみられる意見には、例えば外国人労働者受け入れを強化せよといったものがあります。市場の供給過剰が深刻化するだけなら、企業や労働者の低賃金や低売上、低購買力といった問題は改善しない可能性が高いと考えられます。

購買力に対して人手や生産能力が不足しているなら、賃金や物価はなぜ上がらないのかという疑問もあります。これについてマスコミはデフレと一緒に黙殺する方針であり、企業と労働者が売れないモノを作り続け疲弊していくことを許容していると言えるのではないかと考えられます。
 


「生産性向上」より優先すべきヘリマネ


マスコミ等から聞こえてくる「生産性」云々についてですが、物資の供給能力を向上させ、より効率的に業務を消化できるようになれば、自ずと労働環境も改善するだろうという意味合いが含まれているかと考えられます。しかし、購買力以上に生産しても売れない(分配できない)ため、技術的失業によって労働環境が悪化する可能性のほうが高いと考えられます。現在の優先事項として、通貨の発行と消費者への直接的な分配(ヘリコプターマネー)によって分配体制を整える方が適当ではないかと考えられます。
 


誘導の目的と基本的な姿勢


報道によると政府内部にはデフレ脱却宣言を望む人間がいるそうです。財務省は消費増税をして市中から通貨を回収することが目的であるとみてよいかと思います。行政や議会は「国の借金」を問題視して財政収支を気にする割に、その根本の借金として通貨発行するシステム(準備預金制度)の是非に全く触れませんし、言動も近年は特に生産性向上と消費増税に偏っているように見えます。

マスコミもそうですが、これらの機関は生産性不足が問題であり購買力不足を認めない立場ということが推測できます。こうした機関の動向について、経済問題が通貨システム由来であることを隠蔽し、その負担や原因を消費者や生産者(企業や労働者)へ転嫁しようとしているようにも見えます。



緊縮と反緊縮を水道で例える


 下の図は経済政策に関する緊縮と反緊縮の構図を、自分の理解から大雑把にまとめてみたものです。この例えでは「蛇口が閉まっているから分配される水が不足している、だから蛇口を開ける」と言うのが反緊縮的な考えで、「給水能力そのものが足りないから水が不足している、借金等もあるので蛇口は閉める」と言うのが緊縮的な考えかと思います。先にも述べたマスコミや官僚・政治家・その他経団連等は緊縮的と言えます。


 

違う角度から見てみよう



 長々と説明しましたが改めてまとめると、まずは供給能力と通貨の両方の視点を持つといいのではないかということです。経済に関しては、生産能力偏重で通貨循環(購買力)側への視点を欠いた場合が多く、そのことが貧困の根本的な構造を放置すると同時に過重労働など無理な選択をとる原因にもなっていると考えられるからです。いくらマスコミが言うように力んで給水能力を上げてみたところで、蛇口を開かなければ水は出てこないということです。


2018年6月28日木曜日

経済と水道



目次
  • 経済と水道:蛇口から水を出したい時は
  • 現 状 認 識:ボトルネックは蛇口か給水能力か
  • 解 決 策:蛇口を開くために



まとめ

 この記事では経済を水道に例えた上で、「供給能力過剰・有効需要不足」と、通貨収入を労賃に限定したときに問題になる「技術的失業」という現状認識、そしてそれらに基づく「通貨発行と国民配当」という解決策に触れています。噛み砕いて言えば「水を出すために蛇口を開こう」です。




経済と水道:蛇口から水を出したい時は

 下の図は水道と蛇口から出る水、そして受け皿を表現しています。水を供給し続ける能力を給水能力と呼んでいます。蛇口は開こうと思えば無限に大きく開くことが出来ると考えてください。

 出てくる水を増やしたい時は蛇口を開けます。しかし蛇口の開きが給水能力を超えるようなら、それ以上開けても出る水は増えません。逆に給水能力がいくらあっても、蛇口を開かない場合は出てくる水を増やすことは出来ません。このように出てくる水の流量を決めているものは給水能力と蛇口のどちらか小さい方です。図の右側にその例を入れました。
 この構図を経済に当てはめてみたものが下の図です。モノやサービスは通貨単位で測ります。

用語の説明
  • 供給能力⇔モノやサービスを供給する能力(生産能力)
  • 富の分配⇔モノやサービスが通貨の支払いを通じて分配されたということ
  • 有効需要⇔通貨(請求権証明)の支払い量
  • 需 要 ⇔通貨の支払いを伴わない潜在的な需要


 考え方は水道の図と同じで、図の右側にその例を載せました。分配される富の量を決めているものは、モノやサービスを供給する能力(供給能力)か通貨の支払い量(有効需要)のどちらか小さい方であると言えます。色々穴はあるかと思いますが、先述の水道と似たような関係と言いたいのかと汲み取ってもらえれば助かります。




現状認識:ボトルネックは蛇口か給水能力か

 実際の経済のモノやサービスの値段などから、供給能力と有効需要のどちらが小さい(分配のボトルネックになっている)かを考えてみます。商品供給が購買力(通貨の支払い)より少なければ値段が上がり、購買力より多ければ値段が下がる傾向があります。実際の商品供給量は生産設備の稼働率などで有効需要に沿うよう細かく調整されていると考えられますが、供給能力に余裕があるうちは値段も大きく上がらないと考えられます。

 例えば労働市場では賃金が低い(上がらない)という現象がありますが、そこから労働力の供給が人件費に対して慢性的に過剰な状態と推察できます。もし労働供給の不足が起きているのであれば、賃金も上がると考えられます。その他の商品市場でも安価な商品への需要が本格的に高まってから久しいですが、そもそもそういった売り方が出来るのは供給能力に余裕があるからと考えられます。

シャッター商店街の意味

 いわゆるシャッター商店街のようなところはなぜ長くシャッターを閉めているのかという考察です。今が供給能力が購買力に対して不足している状態と仮定すると、商品を作れば作るほど売上が増える状況と言えます。そのような状況では倒産や遊休ではなく、通貨は貯め込まず先行投資して供給能力を強化していく方を選ぶ企業が多いかと思います。倒産・遊休しても、商品の買い手や投資先を求める人は余るほどいますから、すぐに土地や設備等も別の形で活動を再開すると考えられます。 ですから供給能力が不足しているなら、シャッター商店街が現状ほど増えるとは考えにくいです。消費者に十分な購買力がないため、満足に売れないからシャッターを閉めている(貯蓄の取り崩しを選ぶ)のではないかと考えられます。


不足は蛇口(有効需要)

 以上のようなことを考えて、現状を供給能力過剰、有効需要不足だろうと判断しています。供給能力に対して消費者の購買力が弱いことが、現状に影響を与えている主要な要素であると考えられます。







解決策:蛇口を開くために

消費者に通貨(請求権証明)を分配する方法

 富の分配を増やすためには、有効需要(通貨の支払い)が供給能力と同等まで大きくなるように、消費者に通貨を分配すればいいと考えられます。そのルートは賃金と直接給付が考えられますが、購買力を調整する目的の場合は直接給付が望ましいと考えられます。その理由は、市場の良いところが消費者の需要に合わせて供給形態が適応することだからというのもありますが、技術的失業もあります。

技術的失業:自動化によって人力(人件費)が不要に

 技術的失業は生産技術の進歩(効率化や無人化)によって起こる、失業や低賃金化のことです。そうなる理由は企業が生産活動のために手持ちの通貨を支払う際、労働力よりも安価で高性能な自動機械等があればそちらに通貨の支払いを当てるからと考えられます。こうしたことが様々な業種で起こる結果、労働市場では労働供給の過剰と低賃金化が進んでいくと考えられます。現状では賃金が生活費の全てと言って過言ではない(そもそも公共事業しか現在は基本的に通貨供給手段がない)ですが、必ずしも生産に人が必要なわけではないのは無人工場などを見てもわかるかと思います。

 低賃金は現状では低購買力に直結しますから、消費者は貧苦や少子化に陥ることになりますし、コストが浮いたと喜んでいた企業も、結局は売上の低迷に悩むことになると考えられます。なら技術の導入をやめればいいかというと、そもそも現在の生活を支えているのが、そうして導入されてきた数多の技術ですから難しいと思います。それよりも通貨の賃金分配の限界を認識し、それを補うための方法を考えたほうが建設的かと思います。

解決策:通貨(請求権証明)を発行して分配する

 問題は供給能力は強化されていくのに、一方で消費者の購買力が弱化して富の分配に異常が起こることにあると考えられます。これは賃金だけに通貨収入を限定することで起きますから、供給能力と有効需要(購買力)のギャップを埋めるために通貨発行と全国民への定期給付を行えばいいと考えられます。この施策を国民配当(ベーシックインカム)などと呼びます。

財源と目標の枠組み

 不足した有効需要(通貨の支払い)を補うことが主な目的となるため、財源は基本的に有効需要を抑制しない通貨発行や貯蓄等への税になります。有効需要を抑制する消費等への税に置き換えたり増額停止や減額を行う必要があるのは、供給能力を有効需要が超えた場合や物価が異常に高まった場合と考えられます。その判断のために、物価目標やk%ルール(通貨量の増加率に関するルール)なども導入すればいいと考えられます。通貨発行と直接給付によって心配される過度なインフレのリスクは、こうした枠組みの設定によって克服可能と考えられます。 




2018年1月5日金曜日

2つの需要と2つの供給

本記事の要旨


・2つの需要、2つの供給
・需給に関する3つの視点
・需給から考える今後


2つの需要、2つの供給

今回は需要と供給についてざっくりと整理してみます。
需要は欲求、供給は商品供給と読み替えてもいいかと思います。
商品の値段は需要と供給によって概ね決まっていきます。

例えば賃金労働者として所得を得ている人も、労働力を提供するという「供給」側として明確に参加しています。
ですから賃金が総じて上がらないといった場合、供給側の労働力が足らないというよりは、労働力への需要がなくなったのではないかと考えることも出来ます。
それには例えば機械化による無人化・省人化も関係してくるでしょう。

そのような需要と供給ですが、整理すると以下の概念図のようになると考えられます。

需要と供給

中央の二重の円は、2つの要素が微妙な差で重なり合っていることを表現しています。
どちらが大きいか小さいかは場合によります。
では要素を一つずつ見ていきます。

潜在需要(∞)

持っているおカネに関係ない需要です。
一応限りがないと仮定しています。


潜在供給力(分配可能な富、潜在GDP)

ここでは生産資本(生産手段)をフル稼働した場合に商品を供給できる力のことです。
有効需要の拡大によって分配が可能になると考えられます。

有効需要

おカネの裏付けのある需要、つまり購買力のことです。
いわゆる物価に関係するのはこの有効需要と考えられます。

実際の生産高(GDP)

購買力を見越して生産され、実際におカネで取引された価値(商品)の総額です。
有効需要との関係によって物価が上下するのではないかと考えられます。


需給に関する3つの視点

前項の2つの需要と2つの供給を組み合わせると、いくつかの需給に関する視点が得られます。
ここでは以下の3つにまとめてみました。


有効需要×実際の生産高(GDP)

図では中央の二重の円の部分です。
投資や消費に使われたおカネによって、実際に取引される生産量も決まってくると考えられます。
いわゆる物価下落としてのデフレも、有効需要の低下や商品供給の過剰が関係してくると考えられます。

有効需要×潜在供給力(分配可能な富)

図では概ね紫の部分です。
デフレギャップという言葉は、少なくとも本ブログで使う場合にはこの組み合わせにおける有効需要の不足分のことです。
ですから生産余力(デフレギャップ)が存在しても、有効需要の拡大に実際の生産が追いつかず物価が急激に上がるということはありえると考えます。
ただし生産は今でも過剰気味ですし、有効需要の拡大はスムーズに生産量の拡大に吸収されるということもありえると考えます。
どちらにせよ段階的に様子を見ながら有効需要の拡大を行い、その指標として物価目標を設けておけばいいのではないかと思います。

潜在需要(∞)×実際の生産高(GDP)

潜在需要(∞)×潜在供給力(分配可能な富)

おカネ不要で市場から何を持っていってもいいとしたら、いくら供給力があっても不足すると考えられます。
しかし実際の生産高(GDP)は多くの場合おカネの裏付けのある需要(有効需要)に沿って変動してきましたから、潜在的なものも含めた供給力そのものが不足するということは特殊な場合を除いてあまりないと考えられます。

有効需要とは言い換えれば富の分配力です。
供給力(商品)があっても分配力(おカネ)がなければ富を受け取ることは出来ません。
それがいわゆる「豊穣の中の貧困」であり、おカネ不足でありデフレです。
需要といってもここでいう潜在的な需要と有効需要は違うということです。


需給から考える今後

以下は今回整理してきた需給についての考えに加えて、筆者がネットなどで見かけてこれはよさそうと思った対策などを放り込んでみた図です。


つまり?

所得が賃金に限定されているために分配されない富(潜在供給力)があるので、おカネを直接給付(国民配当)して分配するのがいいと考えられます。
その際には通貨発行と直接給付などで確実に有効需要を増やすとともに、おカネの量と物価に目標を設けることで、安定的なコントロールの目安とすればいいと考えられます。

k%ルール

k%ルールは市中のおカネの量(マネーストック)を毎年k%(kは諸条件で変動)増やそうという考え方です。
市中のおカネの量(マネーストック)と経済成長、給料との関係についてはこちらの記事等を御覧下さい。
市中のおカネの量を毎年例えば5%増やそうとしたら、確実なのは同額の公的支出を新規通貨発行で毎年行うことです。
それを国民配当で通貨供給すれば有効需要もある程度増大すると考えられます。


インフレターゲット

インフレターゲットは物価上昇率を例えば年3%付近に収めようというようなものです。
もし潜在供給力を有効需要が決定的に越えるようなこと等があれば、物価は目標を超えて上がり続けると考えられるので、そのような場合は直接給付の増額停止(あるいは減額)や税などで有効需要を抑える方向に転換が可能と考えられます。
もちろんデフレギャップが存在していても急激な物価上昇が起これば、それを抑えるために同じような方法を取ることが予想されます。

100%マネーで財政金融一体化を

アーヴィング・フィッシャー博士らも賛成した100%マネーを導入すると、これまで別々に行っていた財政金融政策を一本化することが可能になります。
特に通貨供給として国民消費者への定額分配を行うなら公平性に優れていますしし、市場原理とも矛盾しないと考えられます。
銀行貸出としてのおカネの創造を停止することになるため、通貨発行のための国債も不要になりますし、バブルの危険性も非常に小さくなると考えられます。