2019年1月11日金曜日

HOPELESS


  • 「ULTRASEVEN X」の社会問題
  • 「HOPELESS」のあらすじ
  • HOPELESSな社会システム
  • 現実のHOPELESS


「ULTRASEVEN X」の社会問題


 今回は「ULTRASEVEN X」という円谷プロダクションの特撮作品で描写された社会問題について考えます。ちょっとネタバレがあるので本作品を未視聴で気になっているという方はお読みにならないほうがいいと思います。創作と現実の線引きははっきりしているつもりですが、それらを並べることが気になるという方には、こういう見方をしている奴もいるんだなと思ってもらえれば幸いです。



「HOPELESS」のあらすじ


 本シリーズの「HOPELESS」という話では、現実でいうワーキングプアのようなHOPELESS(ホープレス)と呼ばれる人々が登場します。彼らはおカネをたくさん稼げる「仕事」として、商売宇宙人と契約して怪しい装置に生体エネルギーのようなものを提供するのですが、それは行き過ぎると廃人化や絶命に至るものでした。そのことを知った主人公属する特務部隊は、この装置を宇宙人もろとも排除します。一件落着かと思いきや、解放されたHOPELESSの人々が隊員達に対して口にしたのは、意外にも稼ぎがなくなったことへの恨み言でした。眼の前で人が死んだとは思えないほどあっけらかんと、そして稼ぎが無くなったことへの残念さを隠そうともせず彼らは帰路につくのでした。


HOPELESSな社会システム


 この危険な契約の当事者の言い分は、強制はしていないし自由意思だということのようです。ただもう少し視野を広げて見てみると、システム的にそう選択せざるを得ないという強制力は働いているのではないかと推察します。「ULTRASEVEN X」の社会問題の原因が何かはっきりとはわかりませんが、おカネを目的にしているあたり生産技術や資源ではなく購買力不足が問題なのでしょうし、技術的失業の影響を受けているのかなと思います。

 収入が賃金限定のシステムは労働力にしろ命にしろ売った代金だけで生活することになるので、労働を拒否する自由は保障されていないということでもあります。ですからシステムを変えない限りは技術的失業などで購買力不足が深刻化して、それによって生活や労働環境が悪化してもそれを甘んじて受け入れることしか出来ないと考えられます。そのうちに嫌とか苦しいと思う心的機能も抑圧によって麻痺していき、ついにはHOPELESS(絶望的な、という意味だそうです)に至るのかもしれないと思いました。


現実のHOPELESS


 例えば産業革命期には失業と貧民窟が急拡大したと言われています。金本位制(債務通貨の一形態)や緊縮方面の影響もあるでしょうが、概ね技術的失業が原因と思います。この頃ナイチンゲールが向かったクリミアの野戦病院の衛生環境は非常に劣悪だったそうです。購買力不足でおカネが回らず、従って物資も行き届かなかったのではないかと思います。本国では失業、戦争でも地獄という状況でHOPELESSな心情に陥っていたであろう兵士にとって、院内環境を改善したナイチンゲールが天使に見えてもおかしくはないと思います。

 ちなみにナイチンゲールについては色んな見方が出来ますがここでは掘り下げません。彼女は貴族の出身で、この時代では珍しく個人で扱える少なくない資産や大臣などとの人脈があったらしいということだけ指摘しておきます。ここで言いたいのは、購買力不足によっておカネのために命が大量消費されるような状況になるということです。私は債務通貨停止とベーシックインカムに賛成していますが、おカネを発行して配るのは、おカネに支配されないための方法と言うことも出来ると思います。それはこの例のような極端な状況の解決に限らず、今も続く生活のための労働から脱却することに対して有効と考えます。現在のシステムを容認するということは、ここで挙げた例のような状況を容認するということでもあるのではないかと私は思います。